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テレビ朝日メディアプレックス・日本大学藝術学部産学協同総合講座

REPORT:授業レポート

第7回6月12日(土) デジタルシネマと3D 〜アバター、THIS IS ITの世界〜
北谷賢司(ワシントン州立大学メディア経営学部教授、金沢工大虎ノ門大学院コンテンツ&テクノロジー融合研究所所長)
Dr. Robert Gustafson (カリフォルニア州立大学エンタテイメント経営研究所所長)
 ライター 日本大学藝術学部文芸学科4年 栗原 雅貴

 6月12日、第7回講義のレポートです。

 今回もたくさんの学生であふれていました。加藤先生は今回特に緊張していましたね。今までで一番笑顔が引きつっていたかもしれません。

 第7回はお二方の先生が来てくださいました。一人目の方はワシントン州立大学メディア経営学部教授、金沢工大虎ノ門大学院コンテンツ&テクノロジー融合研究会所長 北谷賢司先生です。二人目の方はカリフォルニア州立大学エンタテイメント経営研究所所長 ロバート・グスタフソン先生です。お二人とも様々な活動をしていて、とても著名な方です。

 講義は北谷先生から「デジタルシネマと3D」ということで映画、そして劇場ビジネスについて歴史を振り返りながら、具体論を交え、今後の展望についてお話しいただきました。グスタフソン先生からは「ハリウッドの経済産業」ということでハリウッドでの最近の映画制作におけるトレンドを中心に今の映画産業が抱える諸問題を様々な角度からご説明していただきました。お二方のお話は遠くを想像しているわけではなく、数歩先を見据えているようでした。今回の講義内容について一度でも以前に考えたことのある学生はいたでしょうか。

 

 

 最初は北谷先生の講義でした。まず北谷先生の経歴をご紹介いただきました。北谷先生はテレビメディアの様々な職を歴任し、その後東京ドーム取締役として様々なスポーツ興行やアーティストを東京ドームに招聘し、ライブをプロデュース、そしてその後も様々な企業や大学院などの理事や顧問として活躍し、現職の他にもライオネル・リッチーとニコール・リッチーの代理人としても活動しているとのこと。多くの職を経験し、どの活動でも第一線で活躍されていることは素晴らしいと思いました。
 次に本論として、北米デジタルシネマの進展と現況を撮影・配給・興行の視点からご説明いただきました。元々映画は100年間同じ技術で撮影されてきたものでした。ところが突然デジタルという新しい技術が生まれました。アメリカでは撮影や音声といった技術の数多くが組合を形成しており、その結びつきがとても力を持っています。仕事が無くなる可能性から変化拒否の姿勢をとったためアナログ手法からからデジタル手法への変化は遅れたそうです。映画産業の停滞やアメリカの映画制作6大スタジオ(20世紀フォックス、ウォルト・ディズニー、パラマウント、ソニー・ピクチャーズ、ユニバーサル、ワーナー・ブラザーズ)の制作費高騰にもかかわらず利益減少という厳しい問題に直面するなか、それを打開する答えとして期待されたのがデジタルシネマだということでした。
 撮影の面では、コストとして高額だったフィルムの値段や撮影技術、そして今考えると莫大な量の作業を経て一本の映画が完成されていました。しかし、デジタル技術がそれらの問題のほぼ全てを解消しました。比較してみると20分の生フィルムが60分のデジタル記録になり、現像に一晩かけていた作業が一瞬で済むようになり、オリジナルフィルムのコピーフィルムは著しく画像が劣化したのに対しデジタル技術はオリジナルとコピーフィルムはほぼ同質の画質を保つことに成功しました。
 配給の面でもデジタル技術がもたらした効果は絶大でした。リアルタイムでHDDに複製することが可能になり、配給の仕組みも複雑なものから簡易なものへと変化しました。50ポンドのフィルムは5ポンドのHDDになり、画像の品質保持がより簡単になり、シネコンで上映スクリーンの数を増やしたい場合は機材さえ整えばスイッチをいくつか操作するだけで作業が済むようになりました。

 このような背景を強力にサポートしているものの一つとして「機材の低価格化」が挙げられるとのこと。サウンド・オブ・ミュージック(20世紀フォックス/1965年作品)など名作と呼ばれるいくつかの作品は65mmまたは70mmのフィルムで撮影されていました。65/70mmのフィルムは一般的な35mmのフィルムの約4倍のデータ量を反映することができ、より細密で鮮明な色彩を表現できました。しかしながら、65/70mmフィルムは高額なため経済性の欠けるメディアとして1992年を最後にそのフィルムを使って撮影されることはありませんでした。ところがデジタル技術の発展で4K(65mm/70mmフィルムで撮影したものと同等の品質)の撮影カメラは1台わずか120万円で買うことができる時代になりました。このことによってプロのみでなくアマチュア、学生たちにも自らのクリエイティブにおいて可能性を広げていると北谷先生はおっしゃっていました。
 最後に興行についてです。今一番話題になっている技術といえば3Dといえます。そしてこれがより良い興行を導く一つのトピックであることも確かです。これは新しい技術なのかと思えば、実はそうではないと北谷先生がおっしゃったので驚きました。テレビというメディアが認知され始めた1940年代頃、テレビに脅威を感じた映画業界は、テレビでは再現されないであろう新しい技術を模索し、3Dにその可能性を見出しました。そして1950〜1960年代3D映画が45本制作されたのです。ところが当時はその撮影、投影技術が今ほど優れていなかったこと、その撮影された映画の脚本があまり魅力的でなかったためヒットしませんでした。また、それほどテレビメディアの影響を映画業界が受けなかった背景もあり制作されなくなっていました。そして現在、デジタル技術により3D撮影技術が高まり、3Dメガネも進歩し、技術が脚本の世界観を支援、イメージの増強の一役を担うことでアバター(20世紀フォックス/2009年作品)のような大ヒットが生まれたということでした。もちろん手放しに「3Dこそが映画興行を救う」とはいえません。そこには問題や、疑問点もあります。子どもたちはその技術の真新しさに食いついているだけですぐに飽きてしまうのではないか、3D技術に翻弄されることなく監督は脚本主眼の作品を制作できるのか、3D映像は脳や身体に悪影響をもたらすのではないだろうかなど様々な考えるべき点があります。現段階ではアバターの他にアリス・イン・ワンダーランド(ウォルト・ディズニー・ピクチャーズ/2010年作品)もヒットを記録しています。さらにドリームワークス・アニメーションSKG最高経営責任者のジェフリー・カッツェンバーグはデジタル3D技術を「トーキー技術やカラー映像の技術と同等のインパクト」と称し、今後の発展を期待しており、尚かつ「アニメは全て3Dで今後は撮る」とのこと。いくつもの観点から様々なことが考えられますが、現段階でそれをきちんと判別することは難しく、今後明らかになっていくものとおっしゃる北谷先生はとても説得力がありました。
 さらに3D技術は映画だけでなく、ライブエンタテイメント業界にも大きな可能性をもたらしたそうです。それは劇場やホールなどの空間で映画以外のコンテンツを3Dで放映するというもの。日本ではあまり前例はなく一般的ではないと思うのですが、アメリカでは実際にいくつもの事例があり、成功した例も多々あるそうです。大学のホールにとても大きな放映スクリーンを用意し、そこで大学対抗のアメリカンフットボールを3Dで生放送するといったものから、全米15都市の映画館のスクリーンを使ってマルチプレーヤー対戦を3Dでゲームする「シネマゲーミング」というものなどです。多少チケットが高くても売れているという事実があるので、全世界でもすぐに一般化されてもおかしくありません。
 なんだか夢のような話に聞こえる気もしないでもないのですが、もう本当に数歩先にはこのような可能性が広がっていると考えると、今までとは違う視点で未来を想像できるのではないでしょうか。


  北谷先生がお話しされた後、ここからはグスタフソン先生に「ハリウッドの映画産業」についてお話ししていただきました。グスタフソン先生は日本語を話すのか、通訳の方が別にいるのか、まさか英語のみなのかなど心配しましたが、北谷先生の通訳のもと講義は進みました。
グスタフソン先生は投資会社の経営などの経験を積み、ディレクターとして様々な産学協同プロジェクトを推進、また映画脚本作家としても活躍し、コミュニケーション学関連の論文を多数出版されるなど現職に至るまで様々な活動をされているそうです。
 ハリウッド、というと「ハリウッドスター」というような言葉を連想し、毎日数多くの路地やスタジオで映画が撮影されているような華やかなイメージを膨らます学生も少なくはないと思いますが、現実は必ずしもそういうわけではないそうです。僕がこの講義で特に印象に残った言葉は「The real art of Hollywood movies is the art of the deal.(ハリウッド映画の真の芸術とはビジネスディールの巧妙性だ)」です。この言葉がグスタフソン先生の講義の一つの核になっているような気がしました。
 現在フランチャイズムービー(シリーズ展開することを視野に入れた映画)をハリウッドの6大スタジオは制作することが増えたとのこと。その理由は「ティーンエイジャー層をターゲットに置いた」からだそうです。ではなぜティーンエイジャー層をターゲットにしたかというと、その層が映画そのものだけでなく、映画音楽、劇場、グッズ販売など映画ビジネスに一番利益をもたらすということが分かってきたからだそうです。その層の取り込みに効果的なものがストーリーやキャラクターが、子ども向けの漫画や小説が原作、ティーンが英雄になる、CG特撮のアクションシーン、ハッピーエンドなどの特徴あるフランチャイズムービーということなのです。6大スタジオはその規模が大きいということもあり、作品の芸術性以上に利益を重視するとのこと。今年のアカデミー賞受賞作品のほとんどは独立映画会社の作品だそうです。しかし、独立会社の映画作品は配給の保障が無く、実際にヒットすることはとても難しいそうです。さらに従来のビジネスモデルは崩壊し、新たなビジネスモデルへの変化と対応も求められるとのこと。デジタル技術の進歩によって海賊版がネットで公開される問題解決策もとても大切になっていくということです。

デジタルという技術がもたらしたものは利便性であり、その技術の進歩によってコスト、手間、時間が従来のアナログ的手法に比べて格段に省くことができる。それは新しい時代の到来を示すと同時に、新しい弊害を起こしました。新しい技術の良い面、悪い面をきちんと踏まえ、改善策を探し、実践していくことで更なる何かが生まれる瞬間をそう遠くない未来、僕達は肌で感じる事が出来るのかも知れません。
 この講座を通してクロスメディアに大切な「キカク」や「権利」というキーワードを学んできましたが、更にもう一つ「日本国内だけでなく国外の流行やメディアが向かう未来をさらに意識すること」というキーワードも見えてきたと思いました。



受講した学生さんから授業後のアンケートや口頭での質問、Twitter等で意見、感想、質問を募集しました。そのたくさんのコメントの中から、一部抜粋して掲載します。
◆放送学科Nさん(アンケートより)
自映画のデジタル化によって"映画"と"テレビ"がより近い存在になるのではないかと思いました。...映画とテレビの中間にイチするようなメディアが出てくるような気がしました。
◆音楽学科Tさん(アンケートより)

グスタフソンさんのお話しは華やかに見えるハリウッドが厳しい中で、いかにして、ビジネス展開し、利益制を高くするかということを考えてるかわかり、少しダークではあったかもしれませんが、私は個人的には、映画を衰退させないためには、不可欠なものだと思いました。

◆デザイン学科Aさん(アンケートより)
アナログがデジタルに変わっていく、この大きな流れとともに、体制も変化させ、豊かな表現を取り戻すべきだと思う。
◆写真学科Hさん(アンケートより)

3D映像になったときに、いままで以上の企画内容や技術が必要となり、利益を生み出すのは大変なのではないかと思います。でもケータイが3Dになったら面白いなーと思います。

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